After GAFA 分散化する世界の未来地図

フリーやシェア、パブリックと言った名著を日本に伝えた小林弘人さんは、雑誌WIRED日本版の初代編集長。いまだ海外のテクノロジー事情を追い続けている。昨今の潮流からアフターGAFAな時代を見通す本書は、いかに日本が変化に乏しいかを伝えるものだ。例えばブロックチェーンひとつを取ってみても、はじまる前に終わってしまった感がある。原因は多くの日本企業が相も変わらず、ビジネスになりそうな技術ばかりを追っているからに他ならない。今だって、AIの皮をかぶった自動化ツールを、競合に負けじと慌てて導入してはいないだろうか。もしも、フリーだって、シェアだって、結局は儲からなかったじゃないか、と仰るのであれば、貴方はまさに本書を読むべき対象だ。これからのデジタル社会の中心にあるべきはID。1999年以降、日本では住基ネットやマイナンバーとして制度化が進められてきたけれど、ご存じの通りにほとんど使われていない。その間、インドは13億人の全国民にIDを定着させているにも関わらずだ。この差は一体何だろう。地球上には難民も含め、明確に認知されていない人々が11億人もいるという。生まれた確証のない彼ら彼女らは、何の保障も得られない。インドにもそういう人々が大勢いたからこそ、国家として、IDの普及を急いだのだ。そう、国連も取り上げるほどに大きな社会課題の解決が背景にある。因みにマイクロソフトとアクセンチュアは、この領域にブロックチェーンの適用を検討していたりもする。少子高齢化など、課題先進国と言われている日本において、このアプローチが取られないことは問題だ。テクノロジーとビジネスだけでは持続可能な社会が導き出せない。本書は勿論、全てを悲観するものではない。だから最終章では数少ない成功事例を紹介し、気持ちの切り替えを促すのだ。著者より、実質的にWIREDを引き継いだ前編集長の若林恵さんは、人文知に回帰されている。そういう奥行きを持って読んでも面白い一冊だろう。